3 東西の父性
元京都大学教授の河合隼雄氏は、「父性」を「切断の原理」などと称している{註8}。これに対し、林氏は、それは西洋的な父性であると反論している。林氏 によれば、父性とは、価値の中心、まとめ上げる力、秩序感覚を与える、文化の継承、社会規範の担い手、と具体的にあげている。そんな事情であるので、まず は、洋の東西の父性の原点を探ってみる必要があると思われる。これに対して、母性については、洋の東西を問わずに、同じものと認識されているようである。
いわゆる西洋的な生活様式では、子は、昼間は母に甘えることができても、夜になると別室に寝かされるのが 普通であるため、甘えたくても甘えられなくなってしまう。しかし、これは大人でもそうであろうが、夜にこそ、子は母に甘えたい心理は出るものだ。そのよう な子の願いもむなしく、つまり、母子関係を父が切断してしまうのだ。ここで、子が母に甘えるのを疎外する因子としての父親がいるので、子は父親に嫉妬する ことになる。その様子がエディプス・コンプレックスとして表されるものである。このような関係において究極的には、父を殺して母を得る、という心意が発生 する。このため、いわゆる西洋的な父には「甘えにくい」のである。また体力差、能力差からいって、恐怖、畏怖の対象と子には映るのが一般的であろう。
一方、いわゆる日本的な生活様式では、親子が川の字になって寝る、ということがある。この場合、父に対する嫉妬は、西洋人ほどには起こらない。日本的な生 活様式において、子が母に甘えることができなくなるときは、母が女に変身するときである。これはアジャセ・コンプレックスを形成する要因である。したがっ て、日本的な生活様式では、子は父に対しては西洋人的な意味での「甘えにくい」というのとは異なっているわけだ。嫉妬の感情は、西洋ほどには、特に強くは 発生しないからだ。
以上のように、子に与える影響としての父の役割や「父性」には、洋の東西において、その心理的内容に違いがあると思われる。父性・母性に関する一連の論客 達は、この点を誰も論じていないように思われる。以下、この点について少し詳しく考えてみる。条件母性反射が成立した相手に対しては、子は、安心感が得ら れるため、必要に応じて無条件に甘えていく。この「甘え」によって、子は成長していくと考えられる。子は母に甘えながら、それが充足されれば、母が好きな ものにも甘えていくようになる。この辺りは移行対象論が扱うことであろう。しかし、その様な現象が発生するには、精神的な成長過程を検討する必要がある。
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註1 道義リンクス:
http://www.ne.jp/asahi/hyo/tadaon/michilyn/
註2 林道義HP:
http://www09.u-page.so-net.ne.jp/ka2/rindou/
註3 又吉正治・荻野恒一:沖縄のシャーマニズム(祖先崇拝)に見る家族療法の機能、医療人類学小特集、理想、627号。
註4 又吉正治:祖先崇拝と心理療法、第2回東洋思想と心理療法研究会、駒澤大学、東京、2000年3月。
註5 又吉正治:水子の祟りの精神分析-日本文化の心理療法化、第3回東洋思想と心理療法研究会、駒澤大学、東京、2001年3月。
註6 日本心理学とは日本文化に基づいて西洋諸心理学を拡張、統合、体系化した心理学のことをいう。
参照
日本心理学ML:
http://www.egroups.co.jp/group/Japanese-Psychology/
著者HP:
http://www.geocities.co.jp/SweetHome-Green/6462/
註7 ルネ・スピッツ(古賀訳):
註8 河合隼雄:
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