2006年3月7日 初出し
2006年9月 日本心理臨床学会大会発表
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はじめに
アニミズム・シャマニズムに基づく祖先崇拝は、日本文化の基層をなすものと考えられる。祖先崇拝の論理は、大和古語ときわめて類似したもので語られるた め、日本古来の文化であると考えて良いと思われる。この文化は、男女平等・対等・同質を目指す西洋的価値観とは異なり、子々孫々の繁栄と和合を目指す女性 優位・男系原理と呼んで良い日本的価値観である。神経症、心身症などを発症し、そのために本人やその家族の悩み事・困り事となるとき、上記の日本古来の女 性優位・男系原理の文化が存在する沖縄では、祖先の位牌継承問題に関連することが多い。祖先の位牌継承問題は、いま全国的な話題になっている皇位継承問題 と同じ内容のもので、男系男子継承を原則とする。男系男子継承の原則を実践すると、神経症や心身症、ひいては統合失調症と診断されるような場合も治癒し、 特に後者はユタとして機能することがある。ここでは男女平等・対等・同質を目指す西洋的価値観に対置しうる子々孫々の繁栄と和合を目指す女性優位・男系原 理の日本的価値観の心理的側面の主な部分を記述しておきたい。
家族精神力動
日本文化では、夫婦中心主義の欧米とは対照的に、母子中心主義といっても良い家族関係である。ここで子育ての本質、子の心に生じる不快感を除去し快感に変 える一連の作業、を定義することができる。子の出生以後、子育ての本質が母によってなされれば、半年も経過する頃には、不快感―母―快感、の三要素間に条 件反射が成立し、子は人見知りを呈するようになる。これを条件母性反射と定義する。以後、子は性別に無関係に、母にもっぱら甘えるようになる。つまり、人 間は「母に甘えたい」という心意を持つといえる。
すると、家族関係においては、夫は母を投影できる妻に甘え、子はもちろん母に甘えるわけで、母・妻なる女に、自分には甘える場が無いのに、家族成員の甘え が集中することになる。「甘える」とは「自分でやればできるのに相手に頼むこと」と言えるので、母・妻は「ちっとは自分でやらんかいっ!」といった心境に 至り、やたらイライラするようになる。
このような家族の状況は、メリーランド大学で、祖先崇拝学を数年間ではあるが、教鞭をとった経験から、日本も欧米も同じであることが確信される。
西洋的解決法・・・男女平等・対等の推進
西洋には、土居健郎が指摘したように、「甘え」という語と概念が無い。依存という語が近いが、これは好ましいこととは考えられていない。すると、前項に述 べたような状況にある母・妻を救うひとつの方法としては、家族成員が母・妻に甘えることをやめる・やめさせることがある。家族成員が、相互に甘えることを せず、なるたけ自立することである。しかし、甘えたい相手に甘えてはいけないという抑制が必要となるので、男(夫)から見た女(妻)に対しては、一種の不 快感を覚えることとなる。この不快感を補償するひとつの心理として相手を自分より低く見る、ということがある(女性蔑視)。ここに、男女平等・対等・同質 を目指そうとする西洋的価値観の原点があると考えられる。権利や義務という概念を介して、相互関係が営まれる。
このような家族関係では、お互いが「心の拠り所」とはなりにくくなると考えられる。「心の拠り所」としては、神なるものを利用することとなると考えられる。
日本的解決法・・・女性優位・男系原理の認識
一方、「甘え」の概念を有する日本文化では、夫や子は母・妻に甘えるのは自然であると認識し、甘えてくる夫や子を「甘えさせるという立場に立つ。甘えたい 時に適切に甘えさせてもらえると、相手に対し信頼と忠誠の念が沸き起こるという性質が人間にはある。夫や子をこのような心理状態にしたうえで、自分も(夫 や子に)甘えることを行う、というのが子々孫々の繁栄と和合を目指す日本的価値観である。これを実践するとき、女性優位・男系原理が必要となってくる。そ の実践体系は「婦道」と呼ばれる。ここでは家族成員同士が相互に「心の拠り所」となりうるので、西洋のような神は必要とされないことが特徴だ。万世一系の 人間観を持つ祖先崇拝の論理の中に、天・地・海の大自然を含めた神や仏が存在する。
女性優位/男系原理は、祖先祭祀の方法によって実現される。男が(夫)自分の祖先(沖縄ではトートーメー)を継承し(男系原理)、女(妻)がその祭祀を行 うというものだ(女性優位)。ここに、祖先は男が継承するものという、多くの日本人の心性の原点がある。これは昨今の皇位継承問題での世論調査で、男系男 子継承派が双系双子継承派を超えたことからも知れよう。
女性優位・男系原理に基づく祖先祭祀では、夫方の祖先への報告と自分(妻)方への祖先への報告(祈り)は、おのずと異なったものになることは明らかだ。夫 方の祖先には、夫や子の毎日の行動・言動でよかった点や努力した点を報告し感謝することが行われる。これにより、夫や子を、親密な関係において発生する二 重拘束の影響を無力化して、甘えさせることができるようになる。夫や子に、自分に対する信頼と忠誠の念が沸けば、自分も甘えることができるようになる。こ れでも不足するような場合には、自分方の祖先へ、日頃の不満や鬱積をありのままに報告し、母として妻として女として正しい行動が取れるよう御導きください という報告が行われる。このような報告は家族の中ではできないので、自分方の祖先は継ぐことはせず、実家に戻って行うこととなる。男の同胞がおらず、自分 方の祖先を継がねばならないときは、家の中心にではなく、自分の個室や台所などにひっそりと祭るという慣習である。
社会治安の良さとの関係
以上のようにして、家族関係の中で成員相互に適切に甘えさせるということができれば、成員が甘えられないことによる、拗ね、僻み、恨み、不貞腐れ、自棄糞 の心意の発生を最小限に食い止めることができる。これらの心意は社会的には犯罪と密接に関連する。あるいは、そんな心意に支配された医師が手術を行う場合 を考えればわかるように、逆に言えば、人間の社会活動の安全性と信頼性が高まることが理解されよう。また、「甘え」の文化においては、自分の甘えを他者に 見られるときには「恥ずかしさ」を覚えるという心理があるので、「恥」の感覚が社会的行動を自然に抑制する方向に働くことが分かる。このような方法が日本 文化として存在してきたことを考えれば、社会治安は、このような文化が無い場合に比べて格段に良好になることがわかる。たとえば、スウェーデンの犯罪発生 率は日本の10~50倍である。
参考文献
又吉正治:皇位継承論考-その民間版としての沖縄の女性優位・男系原理に見る思想、カレント、潮流社、東京、平成18年3月号より連載中。
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