赤ちゃんがブランケットにしがみつく現象は、ウィニコットらによってよく研究され「移行対象」と呼ばれ る。簡単に言えば「母親代わり」なのである。マズロー心理学的にいえば、母親から与えられるべき安全欲求を代理的に充足させようとする行為である。これは ブランケットが代わりとなっている母親が赤ちゃんをかまってあげるようにすると、やがてはおさまってしまう現象である。
例えば、子供が勉強にしがみついているとか、仕事にしがみついている大人がいると、頼もしいものとされがちであるが、本当であろうか?表面の現象に惑わされてはならない。あるいは、自分の都合の良いように解釈してはならない。
安全欲求が未充足のままに成長すると、越行して代理欲求が承認欲求の形をとって現れることがある。人に認められるための行動、すなわち勉強に励む、仕事に 励む、という行動なのであるが、根底に「不安」を抱えているために、がむしゃらに勉強や仕事に励んでしまう(しがみついてしまう)のだ。
しがみつく対象が勉強や仕事であると、一見、好ましいかのように見えるけれども、実はそうではない。安全欲求のみ充足から来る寂しさや不安を「我慢」して いるので、我慢の限界に到達すると、もうしがみつかなくなってしまうのだ。傍から見れば「やる気を急速に失う」というように見えるのだ。いわゆる燃えつき 症候群である。あるいは、キレてしまう、ようにもなる。
我慢の限界は臨床的には10年前後である。13歳の子が問題を起こすとき、3歳くらいからいわゆる「良い子」ということにしがみついた結果、といってよ い。17歳の子が問題を起こすとき、7歳くらいから何かを我慢し続けてきた、ということになる。これは大人も同様である。何某かを我慢し続けると、いずれ は暴発してしまうものなのである。
以上のようなことからすると、人が何かに「しがみつく」様なことを行うとき、その原因を良く見抜き、精神衛生に配慮してあげる必要があるといえる。この配慮は「家庭」における機能の一つとして重要なものであろう。
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