WHOの健康の定義で使用される『霊』について少し考えてみる。この言葉は、どうもわれわれ日本人にとっては胡散臭さを感じさせてくれる場合が多い。『霊感商法』などというものが流行ったせいではないかと思われるのであるが…。
健康の定義に関連して、『霊性(spirituality)』については、伊田広行氏がスピリチュアルケアに関する論考の中で述べていることからキーワードを拾ってみよう(伊田広行:大阪経大論集第54巻5号・2004年1月)。それは、
存在意義 生きる意味 死後の世界 人生
人間関係 内的自己の追及 他者 神 …
といったことである。このような事柄に共通しているものといえば、良い意味にせよ悪い意味にせよ、相互間の『影響力』ではないだろうか。そして私の最大の 関心事と言えば、人がこれらに関心を持ち始めるようになったときに、これらを追求していくことができるような基本的なツールというものが作れるのかどう か、ということである。
それらを人に与えるのは、従来は、宗教の主たる役割であったと考えられる。しかし世界には無数の宗教が玉石混交のごとく存在し、対立を繰り返してきている 点を考えれば、人類は他にもっと基本的な何かを必要としているのではないかと思われてならない。男女が交わることによってこの世に生まれ、母の乳を飲んで 成長し、そして子を作り死んでいく、これが何回となく繰り返されてきているのは、人種を問わず共通したことである。人類に共通している事柄を基盤にして、 かつ、世界に無数の文化・宗教が存在することなども説明・理解しえるような、基本的なツールが存在する可能性はないのだろうか。
このことからすれば、WHOの健康に関する定義から発生した霊性(spirituality)の問題は、上述のキーワードに通底すると思われる『影響力』を基本概念として検討しうる可能性があると思われる。
ここで面白いのは、日本文化における『霊』の概念である。霊(あるいは魂(たましい))は、古代大和文化が現代も生き続けていると考えられる現代の沖縄文化においてはマブイと呼ばれており、その性質は明確に表現されている。それは次のようである。
(1) それを無くせば(原語的には『落とせば』である)病気になる。
(2) それを取り戻せば病気が治る。
ここで『それ』がマブイ、すなわち『霊』なのである。つまり『霊』とは、人を病気にしてしまうような『影響力』を有する存在なのである。
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